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会長挨拶

全日本漢詩連盟会長 鷲野正明

最近、若い人のあいだで、ネットを利用して漢字の二字熟語や、四字句を作って楽しんだり、あるいは五言絶句、七言絶句の「詩」を作ったりすることがはやっている、と聞きました。漢字を並べると何か威風堂々とした雰囲気が出せるからでしょうか。漢字を使った遊びから、きっと漢詩を本格的に作ってみようという人が出てくることでしょう。最近出会った大学受験生が、漢詩がとても上手だったので聞いてみたら、高校時代仲間内で漢詩を作りあっていたと言っていました。

近頃は、また大河ドラマの影響からか、漢詩がブームになっているといいます。出版社もこの機を逃さず、分かりやすい漢詩関係の本を出版しようという動きが起こっています。なにかきっかけがあれば、漢詩を学び、作ってみようという人がいるはずです。漢詩作りを中学や高校で教わることは稀なことでしょうが、積極的に作詩を教えているという新聞記事もありました。本会で漢詩大会を開くと、先生の勧めもあるのでしょう、年ごとに若い人の投稿が増えてきています。

漢字遊びをしたり漢詩を作ったりするのは、私たち日本人に漢詩好きなDNAがあるからに違いありません。日本人は奈良・平安時代から自分の思いを伝えるために漢詩を作ってきました。はじめは中国の六朝の詩や唐の詩を真似ていましたが、平安時代に菅原道真が日本人の心を詠う文学にまでたかめました。鎌倉・安土桃山時代の五山文学、江戸時代では個性豊かな詩が多く生まれ、近代では専門の漢詩人のほかに、森鴎外や夏目漱石、永井荷風などの文学者も漢詩を作りました。

昭和・平成の漢詩ブームは、本会の前会長・石川忠久先生のラジオ講座が毎週放送され多くの人々に漢詩のおもしろさが浸透したときです。半年ごとに使用するするテキストが販売され、いつもかなりの部数が売れたといいます。漢詩を作ろうという人が増えたのもそのころです。テキスト作成に携わった一人として、いまは懐かしい思い出です。しかし残念ながら石川先生の放送が10年ほど続いて終了すると、次第に下火になりました。

今日では生成AIに漢詩を作らせることができます。まったく詩になっていませんが、いつかはしっかりした漢詩が作れるようになるかもしれません。ただし、詩は自分の思いや志を詠うものです。AIや他人に作ってもらっても、それは自分の「心の詩」ではありません。詩を作る楽しみは、作る過程にあり、漢字を並べればいい、漢詩らしく作ればいい、というものではありません。

ひそかに漢詩ブームが続いていて、作詩者が各地に多くいるとき、全国の漢詩人を鳩合して本会が設立されました。それから20年。いま新たな漢詩ブームが起こっています。漢詩は作りかたのコツを覚えれば簡単にできます。身近に詩のある生活が、いかに人生を潤いのあるものにすることか。すでに会員になっている人は、その楽しみを知って、吟行会を開催したり、作品を批評しあったりと、日々楽しんでいます。初心者には、ベテランが懇切丁寧に指導します。

詩を作るのは何かに感動しそれを文字にしてみたいと思うことから始まります。俳句でも短歌でも、自由詩でもいいわけですが、その選択肢の一つとして漢詩があります。混迷するこの令和の時代に、心をくつろげる漢詩の世界に、多くの方が参加されることを心待ちにしています。

令和6年11月20日

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